経営理念は、本当に会社を変えるのか。
会社の受付や会議室に、経営理念が掲げられている。ホームページにも載っている。朝礼で唱和している会社もあります。社員に、「うちの経営理念は?」と聞けば、答えられるかもしれません。
では、もう一つ聞いてみます。
「その理念は、どういう意味ですか?」同じ答えが返ってくるでしょうか。
理念の言葉を知っていることと、理念を理解していることは違う。
例えば、
「お客様第一」 「地域社会への貢献」 「挑戦し続ける」
こうした言葉を経営理念として掲げている会社はあります。言葉そのものは、決して難しくありません。でも、「うちの会社にとって、お客様第一とは何だろう?」と考えると、少し難しくなります。
お客様の要望には、できるだけ応えることなのか。
品質を守るためなら、無理な依頼を断ることもお客様第一なのか。
納期と品質のどちらかを選ばなければならないとき、何を優先するのか。
「地域社会への貢献」なら、何をもって地域への貢献と考えるのか。
「挑戦し続ける」なら、どこまでの失敗を会社として受け入れるのか。
言葉は同じでも、その意味をどう理解しているかによって、実際の判断は変わります。だから大切なのは、言葉そのものより、その言葉の奥にある「この会社は何を大切にするのか」が共有されていること。理念の言葉を知っていることと、理念の核心を理解していることは違います。
理念は、迷ったときに現れる。
理念が本当に必要になるのは、答えが決まっているときではありません。
何を優先するか迷ったとき。二つの選択肢の間で悩んだとき。マニュアルだけでは判断できないとき。そんなときに、「うちの会社なら、どうするだろう。」と考える。
そこで同じ理念を共有している人たちが、まったく違う方向へ判断するのであれば、理念の言葉は共有されていても、その意味までは共有されていないのかもしれません。
理念は、覚えるための言葉ではありません。
日々の判断の中に現れて、初めて意味を持つものです。
理念は、「伝える」だけでは共有されない。
では、理念を何度も伝えればいいのでしょうか。
社内報に載せる。朝礼で話す。研修をする。経営者が繰り返し語る。こうしたインナーコミュニケーションは大切です。でも、一方的に伝えるだけでは、「言葉を知っている」ところまでは行けても、「自分の仕事ではどういう意味なのか」まで共有するのは難しい。
「今回の判断は、理念に沿っていたのか。」「この会社のお客様第一なら、どうするべきだったのか。」
実際の仕事を材料にして、社員同士で考える。経営者自身も、自分がなぜその判断をしたのかを言葉にする。そうしたやり取りを重ねることで、理念は少しずつ自分たちの仕事の意味になっていきます。
理念が、会社の行動になっているか。
理念の核心を理解し、自分の仕事で判断できるようになる。でも、それだけで会社が変わるとは限りません。理念に沿った行動をしても、評価されない。部署によって判断が違う。
経営者自身の意思決定が、掲げている理念と矛盾している。そんな状態なら、一人ひとりが理念を理解していても、会社としての行動にはつながっていきません。
大切なのは、個人が理解したことが、会社としての判断や行動につながっているか。ということです。
経営理念をつくっただけでは、会社は変わりません。
社員が言葉を覚えただけでも、会社は変わりません。
理念の核心を理解する。自分の仕事の判断に使う。その判断について、組織の中で考える。そして、一人ひとりの理解が、会社としての行動につながっていく。そこまでつながったとき、理念はようやく額縁から出て、会社の中を動き始めます。
社員に、「経営理念を知っていますか?」と聞くのではなく、
「この会社が本当に大切にしていることを、あなたはどう理解していますか?」と聞いてみる。
その答えに、理念が本当に共有されているかが表れるのかもしれません。
POINT
経営理念は、会社が何を大切にし、何のために存在し、どのような考え方で事業を行うのかを示すものです。大切なのは、理念の言葉を社員が知っていることだけではありません。その言葉が何を意味するのかが共有され、日々の判断や行動のよりどころになっているかどうかです。
経営理念には、組織の内側で共通の価値観や判断のよりどころをつくる内部統合機能と、企業の存在意義や方向性を社会に示し、外部環境との関係を考える外部適応機能があります。
理念を「掲げること」と、理念が「組織の中で働くこと」は同じではありません。