ERG理論とは何か

理論から学ぶ

人の欲求は、順番どおりに変化するとは限らない

人は、何によって仕事への意欲を持つのでしょうか。

安定した生活を送りたい。
職場の人たちと良い関係を築きたい。
自分の能力を生かし、もっと成長したい。

こうした欲求は、どれか一つだけが存在しているわけではありません。生活が安定していても、人との関係に悩むことがあります。周囲から認められていても、もっと難しい仕事に挑戦したいと思うことがあります。

反対に、成長したいと思っていても、その機会が得られなければ、待遇や周囲からの評価を以前より強く意識するようになることもあります。人の欲求は、単純に一方向へ進むものではありません。

こうした欲求の動きを、存在・関係・成長という3つの欲求から捉えたのが、ERG理論です。

ERG理論とは何か

ERG理論は、アメリカの心理学者クレイトン・アルダファー(Clayton P. Alderfer)が提唱した欲求理論です。

人間の欲求を、

E:Existence ………… 存在欲求
R:Relatedness …… 関係欲求
G:Growth …………… 成長欲求

という3つに整理します。

ERGという名称は、この3つの英語の頭文字から取られています。特徴的なのは、単に人間の欲求を3つに分類したことだけではありません。
複数の欲求が同時に存在し、その満たされ方によって、それぞれの欲求の強さが変化する
と考えるところに、ERG理論の重要な特徴があります。

存在欲求は、人が生きていくために必要な物質的・生理的な条件に関わる欲求です。
食事や住居といった基本的な生活条件だけでなく、仕事における給与や福利厚生、安全な労働環境なども関係します。

たとえば、
「安定した収入を得たい」
「安心して働ける環境がほしい」
「生活を安定させたい」

といった欲求です。 人が生活し、働いていくための基盤に関わる欲求と考えることができます。

関係欲求は、他者との関係に関わる欲求です。

職場の仲間と良い関係を築きたい。
組織の一員として認められたい。
上司や同僚から評価されたい。

こうした、人とのつながりや相互の関係の中で満たされる欲求が含まれます。 存在欲求が生活や仕事の条件に関わるのに対して、関係欲求は、他者との関わりの中で得られるものに焦点があります。

成長欲求は、自分の能力を発揮し、さらに成長していきたいという欲求です。

「もっと難しい仕事に挑戦したい」
「自分の能力を生かしたい」
「仕事を通じて成長したい」

といった欲求がこれにあたります。
現在の自分の能力を使うだけではなく、新しい経験を通じて能力を高めたり、自分の可能性を広げたりすることに関わる欲求です。

マズローの欲求階層説と何が違うのか

ERG理論は、マズローの欲求階層説と深い関係があります。
マズローは、人間の欲求を生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求などの階層として捉えました。

アルダファーは、こうした人間の欲求を、存在・関係・成長という3つに再整理しました。
しかし、ERG理論の特徴は、5つを3つにまとめたことだけではありません。

欲求が必ず下位から上位へ、一つずつ順番に移っていくとは考えない点が重要です。

E・R・Gは同時に存在することができます。
そして、ある欲求が満たされたり、反対に満たされなかったりすることで、別の欲求が相対的に強くなることがあります。 ERG理論では、人の欲求を固定的な階段としてではなく、複数の欲求の強さが変化するものとして捉えます。

満たされることで、より上位の欲求が強くなる

ある欲求が満たされることで、より上位の欲求が強くなることがあります。
例えば、生活が安定し、安心して働けるようになる。

すると今度は、

「職場で信頼できる仲間がほしい」
「自分もチームの一員として認められたい」

と、人との関係をより重要に感じるようになるかもしれません。
さらに、そうした関係が築かれ、安心して仕事ができるようになると、

「もっと難しい仕事に挑戦してみたい」
「自分の能力をもっと生かしたい」

という成長への欲求が強くなることがあります。

このように、

ERG理論における欲求の変化
E:存在
→ R:関係 → G:成長

と、より上位の欲求が強くなっていく方向は、一般に満足・進行(satisfaction-progression)として説明されます。

ただし、これは「Eが終わったらRへ進み、Rが終わったらGへ進む」という意味ではありません。E・R・Gは同時に存在しており、ある欲求が満たされることで、別の欲求が相対的に強くなるということです。

また、成長欲求には、成長する経験そのものが、さらに成長したいという欲求を強めることがあるという特徴もあります。しかし、ERG理論では、欲求は上方向だけに変化するわけではありません。

満たされないことで、下位の欲求が強くなる

もう一つ重要なのが、欲求不満・退行(frustration-regression)です。
こちらは、満足・進行とは反対の方向です。

例えば、ある社員が、
「もっと新しい仕事に挑戦したい」
「自分で考えて仕事を進めたい」
と思っていたとします。
成長欲求(G)が強くなっている状態です。

ところが、何度提案しても仕事を任せてもらえない。
新しいことをしようとしても、
「余計なことをしなくていい」
と止められる。

成長したいという欲求が、なかなか満たされません。

すると、それまでよりも、
「もっと自分を評価してほしい」
「上司は自分のことを理解してくれない」
と、関係欲求(R)が強くなることがあります。

さらに、
「これだけ働いているのだから、もっと給料を上げてほしい」
「待遇が割に合わない」
と、存在欲求(E)に関わる条件を以前より強く意識することもあります。

つまり、

G:成長 → R:関係 → E:存在

というように、上位の欲求が満たされないことで、より下位の欲求が強くなることがある。
これが欲求不満・退行です。

欲求が「入れ替わる」わけではない

ここで重要なのは、成長欲求が消えて、関係欲求や存在欲求に置き換わったわけではないということです。

E・R・Gは同時に存在しています。

その中で、ある欲求が満たされたり、満たされなかったりすることで、それぞれの欲求の相対的な強さが変化することがあります。たとえば、成長する機会を失ったからといって、「成長したい」という気持ちそのものがなくなったとは限りません。

成長欲求を持ちながら、同時に、
「もっと評価してほしい」
「もっと待遇を良くしてほしい」
という別の欲求が強くなることがあります。

人の欲求を「今はこの段階」と一つに決めてしまうのではなく、複数の欲求が同時に存在し、その強さが変化していくものとして見る。 ここに、ERG理論の動的な特徴があります。

人の欲求は、一方向には動かない

人は、生活が安定したから必ず人間関係を求め、その次には必ず成長を求める、という単純な順序で動くわけではありません。存在・関係・成長という複数の欲求を同時に持ちながら、その置かれている状況によって、どの欲求を強く感じるかが変わります。

満たされることで、より上位の欲求が強くなることがある。
満たされないことで、より下位の欲求が強くなることもある。
そして、成長することによって、さらに成長したいと思うこともある。

人の欲求を、一段ずつ上っていく階段ではなく、互いに影響しながら強さを変えていくものとして捉える。

それが、ERG理論を理解するうえで重要な視点です。


参考文献

  • Alderfer, C. P. (1969). “An Empirical Test of a New Theory of Human Needs.” Organizational Behavior and Human Performance, 4(2), 142–175.
  • Alderfer, C. P. (1972). Existence, Relatedness, and Growth: Human Needs in Organizational Settings. Free Press. ERG理論における欲求の変化

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