「見て覚えろ」で、技術は会社に残るのか。

2026.10.15
育てる

言葉では教えられない技術がある。

「仕事は、見て覚えるものだ。」

職人の世界だけでなく、製造現場やさまざまな職場で、昔から言われてきた言葉です。
ベテラン社員の仕事を見ながら、若い社員が技術を身につけていく。
確かに、言葉やマニュアルだけでは伝えられない技術があります。

道具を扱う感覚。
微妙な力加減。
経験を重ねることで身につく判断。

一緒に仕事をしながら、見て、まねて、経験することで伝わるものも少なくありません。
しかし、それだけで十分なのでしょうか。
「何となく、こうするとうまくいく。」

ベテラン社員には当たり前の判断でも、若い社員には、その理由が分からないことがあります。仕事のやり方を見せることと、その技術を理解し、受け継いでもらうことは同じではありません。

その人が辞めたら、技術もなくなる。

長年、会社を支えてきたベテラン社員が退職する。
すると、それまで当たり前にできていた仕事が、急に難しくなることがあります。

「あの人なら、すぐに分かったのに。」
「この場合、どう判断していたんだろう。」

作業手順は残っていても、なぜそうするのかが分からない。
問題が起きたとき、どこを確認すればよいのかも分からない。
長い経験の中で培われた技術や判断が、一人の社員の中に蓄積されていたのです。
会社には、その技術を持った人がいた。
でも、その人がいなくなると、技術まで失われてしまう。

社員が技術を持っていることと、会社に技術が残っていることは違います。

技術を受け継ぐ人が育たなければ、長年積み重ねてきた経験も、その人の退職とともに失われてしまうかもしれません。

個人の技術を、会社の財産に。

では、どうすれば技術は会社に残るのでしょうか。

ベテラン社員と一緒に仕事をする。実際の作業を通じて、言葉では伝えにくい感覚や判断を学ぶ。
そして、「なぜ、そこでそう判断したのか」を聞いてみる。経験から得られた工夫や判断の理由を、言葉にしてみる。それを作業手順や判断基準として整理し、ほかの社員も活用できる形にしていく。

つまり、技術の標準化です。
標準化された技術を、ほかの社員が実践する。そして、そこで得られた経験をもとに、さらに改善していく。
もちろん、すべての技術を言葉やマニュアルにできるわけではありません。
微妙な力加減や感覚などは、実際の作業を通じて身につけていく必要があります。

標準化できるものは標準化し、経験を通じてしか伝わらないものは、人から人へ受け継ぐ。

そうした積み重ねによって、個人の中にあった技術や知識が、組織の中で共有され、次の世代へと受け継がれていきます。

「見て覚えろ」は、決して間違いではありません。
しかし、それだけに頼っていては、技術が特定の社員の中にとどまってしまうかもしれません。

技術を持った人がいる会社と、技術が受け継がれていく会社は違います。

あなたの会社の技術は、誰か一人の中にありませんか。
そして、その人がいなくなっても、会社に残るものになっていますか。


POINT

この記事のテーマは、経営学では「SECIモデル」につながります。

SECIモデルは、個人が持つ暗黙知と、言葉や文書などで表現できる形式知が、共同化・表出化・連結化・内面化という4つのプロセスを通じて相互に変換され、知識が創造されていくことを説明するモデルです。

ベテラン社員と一緒に仕事をして技術を学ぶことは「共同化」、経験や判断の理由を言葉にすることは「表出化」、それらを既存の知識と結びつけることは「連結化」、学んだことを実践して自分の技術にしていくことは「内面化」につながります。

個人の経験や技術を、組織の中で共有し、受け継ぎ、さらに発展させていく。SECIモデルは、その知識創造の過程を理解する視点を与えてくれます。

→ 「SECIモデル」とは

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