目標は、どのように行動を変え、
成果につながるのか
企業では、売上目標や生産性の向上、品質改善など、さまざまな目標が設定されています。
しかし、同じ目標を与えられても、積極的に取り組む人もいれば、なかなか行動につながらない人もいます。目標に向かって努力を続ける人もいれば、途中で取り組みが弱まってしまう人もいるでしょう。
目標を設定することと、その目標に向かって行動することには、どのような関係があるのでしょうか。
目標の内容や難易度、そして本人がその目標をどう受け止めているかによって、行動や成果は変わるのでしょうか。 こうした目標と人の行動、成果との関係を説明するのが、目標設定理論(Goal-Setting Theory)です。
目標設定理論とは何か
目標設定理論は、心理学者エドウィン・ロックによって提唱され、その後ゲイリー・レイサムらとの研究によって発展した動機づけ理論です。
この理論では、具体的で難易度の高い目標は、曖昧で容易な目標よりも、高い成果につながりやすいと考えます。
例えば、「できるだけ売上を伸ばす」という目標よりも、「一定期間内に売上を10%増やす」という目標の方が、何を達成すべきかが明確になります。また、容易に達成できる目標よりも、努力を必要とする挑戦的な目標の方が、より高い水準の行動を引き出す可能性があります。
ただし、難しい目標を設定すれば、必ず成果が高まるわけではありません。本人がその目標を受け入れ、達成しようとする意志を持っているかどうかも重要です。また、達成に必要な能力や資源、進捗を確認できる仕組みなども関係します。 目標設定理論は、単に高い目標を掲げることの重要性ではなく、目標がどのような条件のもとで人の行動と成果に影響するのかを説明する理論なのです。
目標の具体性と難易度
目標設定理論では、目標の具体性と難易度が重要な要素になります。
目標の具体性
具体的な目標は、何を達成すべきかを明確にします。
例えば、「品質を向上させる」という目標だけでは、どのような状態を目指すのか、何を優先すべきなのかが曖昧になりがちです。
一方、「製品の不良率を現在の水準から一定期間内に半減させる」という目標であれば、達成すべき状態が明確になります。目標が具体的であることによって、人は注意を向ける対象を定めやすくなり、自分の行動が目標に近づいているかどうかを判断しやすくなります。
目標の難易度
目標設定理論では、容易な目標よりも、難易度の高い目標の方が高い成果につながりやすいと考えます。
容易に達成できる目標では、それ以上の努力や工夫が必要とされない場合があります。
一方、挑戦的な目標は、より多くの努力や新しい方法の探索を促す可能性があります。ただし、ここでいう難しい目標とは、達成が不可能なほど高い目標を意味するものではありません。 本人の能力や課題の性質、目標に対する意志などによって、その効果は変わります。
目標は、どのように行動を変えるのか
では、具体的で挑戦的な目標は、なぜ人の行動に影響するのでしょうか。
ロックとレイサムは、目標が行動に作用する仕組みとして、次の4つを説明しています。
① 注意の方向づけ
目標は、人の注意を達成すべき課題に向ける働きを持ちます。
何を目指すのかが明確になることで、目標に関係する活動を優先し、関係の薄い活動への注意を減らしやすくなります。
② 努力の増加
難易度の高い目標は、容易な目標に比べて、より多くの努力を引き出す可能性があります。
目標が求める水準に応じて、投入する労力や集中の程度が変化するということです。
③ 持続性の向上
目標は、困難に直面したときにも、取り組みを続けようとする働きに関係します。
すぐには成果が現れなくても、達成すべき目標が明確であれば、努力を継続する方向に作用することがあります。
④ 方略の探索
目標は、達成するための方法や工夫を考えることにも影響します。
従来の方法では達成が難しい場合、新しい手順を考えたり、必要な知識や技能を身につけたりする行動につながることがあります。このように、目標は単に意欲を高めるだけではありません。
何に注意を向け、どれだけ努力し、どのくらい続け、どのような方法を考えるか。 こうした行動への働きを通して、成果に影響すると考えられています。
目標の効果を左右する
「目標コミットメント」
具体的で難しい目標を設定しても、本人がその目標を達成しようと思っていなければ、十分な行動につながらないことがあります。
そこで重要になるのが、目標コミットメント(Goal Commitment)です。
目標コミットメントとは、設定された目標を達成しようとする意志を持ち、その目標に向かって取り組み続けようとすることです。
特に難易度の高い目標では、目標コミットメントが重要になります。困難な目標を達成するには、努力を重ね、障害に直面しても取り組みを続ける必要があるためです。
つまり、目標の難易度が高いほど、本人がその目標にどの程度コミットしているかが、成果との関係を左右する重要な条件になります。
目標は、誰が設定するべきなのか
目標設定というと、本人が自分で目標を決めた方が、意欲的に取り組めると考えられることがあります。しかし、目標設定理論では、目標は必ずしも本人が設定する必要はありません。
リーダーが設定した目標であっても、本人がその重要性を理解し、受け入れ、達成しようとする意志を持つことが重要です。ここでは、目標設定への参加と目標コミットメントを区別する必要があります。
目標設定への参加とは、目標を決める過程に本人が関与することです。
一方、目標コミットメントとは、設定された目標を達成しようとする意志を持つことです。目標設定への参加は、目標の意味や重要性を理解し、コミットメントを高める一つの方法になり得ます。しかし、参加したからといって、必ずしも強いコミットメントが生まれるわけではありません。
反対に、リーダーが設定した目標であっても、本人がその目標を受け入れ、達成しようとする意志を持つことは可能です。重要なのは、誰が目標を決めたかということだけではなく、本人がその目標をどのように受け止めているかという点です。
目標コミットメントと自己効力感
目標コミットメントを左右する要因として、目標の重要性と自己効力感が挙げられます。
本人がその目標を重要だと感じているほど、達成しようとする意志が強まりやすくなります。また、自己効力感(Self-Efficacy)も重要です。
自己効力感とは、ある行動や課題を自分が遂行できるという認識です。例えば、目標が重要だと理解していても、「自分には到底達成できない」と感じていれば、目標に向かう意志が弱まる可能性があります。
一方、「努力や工夫によって達成できる」と考えていれば、難しい目標にも取り組もうとする意志を持ちやすくなります。
ただし、自己効力感は、単なる楽観的な気持ちではありません。本人の経験や能力に対する認識などと関係するものです。 目標コミットメントを理解するうえでは、その目標が重要だと感じられることと、達成に向けて自分が行動できると認識していることの両方が重要になります。
目標から成果までの関係
ここまでの関係を整理すると、目標の具体性と難易度は、注意の方向づけ、努力、持続性、方略の探索を通して、行動や成果に影響します。
そして、その効果には目標コミットメントや自己効力感などが関係しています。

目標設定理論の成立条件と限界
目標設定理論では、具体的で難しい目標が高い成果につながりやすいと考えますが、その効果にはいくつかの条件があります。
まず、フィードバックが重要です。
目標に対して現在どこまで達成できているのかが分からなければ、努力の程度や行動の方法を調整することが難しくなります。また、本人が課題を遂行するために必要な能力や知識、資源を持っていることも重要です。どれほど高い目標にコミットしていても、達成に必要な条件が不足していれば、成果につながるとは限りません。
さらに、課題の複雑性にも注意が必要です。
手順が比較的明確な課題では、具体的で挑戦的な成果目標が有効に働きやすい一方、新しい知識や技能の習得が必要な複雑な課題では、成果そのものよりも、達成方法の習得に焦点を当てた学習目標が適している場合があります。
また、特定の数値目標を強く意識することで、目標に含まれない重要な仕事への注意が弱まる可能性もあります。したがって、目標設定理論は、どのような目標でも高く設定すれば成果が上がるという考え方ではありません。 目標の内容だけでなく、本人の意識や能力、課題の性質などを含めて理解する必要があります。
目標設定理論が示すもの
目標設定理論は、具体的で挑戦的な目標が、人の行動を方向づけ、努力や持続性、達成方法の探索を促すことを説明しています。
ただし、目標を設定しただけで、その効果が生まれるわけではありません。本人がその目標を受け入れ、達成しようとする意志を持っているかどうかも重要です。
目標を設定することと、その目標に向かって行動し続けることは、同じではありません。 目標設定理論は、目標の具体性や難易度に加え、目標コミットメントや自己効力感などの条件を捉えることで、目標が行動と成果にどのようにつながるのかを理解する視点を提供しています。
参考文献
- Locke, E. A. (1968). Toward a Theory of Task Motivation and Incentives. Organizational Behavior and Human Performance, 3(2), 157–189.
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (1990). A Theory of Goal Setting & Task Performance. Prentice Hall.
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a Practically Useful Theory of Goal Setting and Task Motivation: A 35-Year Odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717.
- Klein, H. J., Wesson, M. J., Hollenbeck, J. R., & Alge, B. J. (1999). Goal Commitment and the Goal-Setting Process: Conceptual Clarification and Empirical Synthesis. Journal of Applied Psychology, 84(6), 885–896.