制約理論(TOC)とは

2026.09.10
理論から学ぶ

全体の成果を左右する「制約」は、
どこにあるのか。

会社では、さまざまな改善が行われています。

作業時間を短くする。
設備の稼働率を上げる。
一人あたりの生産量を増やす。

それぞれの改善には意味があります。

しかし、一つひとつの仕事を効率化することが、そのまま会社全体の成果につながるとは限りません。
では、全体の成果を高めるためには、どこに注目すればよいのでしょうか。
この問いを考える一つの手がかりになるのが、**制約理論(TOC:Theory of Constraints)**です。

制約理論(TOC)とは何か

制約理論は、エリヤフ・ゴールドラットによって体系化されたマネジメントの考え方です。

基本にあるのは、組織やシステム全体の成果は、その成果を制限している「制約」によって左右されるという考え方です。

会社の中には、さまざまな工程や仕事があります。それぞれの工程や仕事を個別に最適化するのではなく、まず、「いま、全体の成果を最も制約しているものは何か」を見つける。そして、その制約を起点に、ほかの工程や仕事との関係まで含めて、システム全体の成果を高めていく。

これが、TOCにおける「全体最適」の考え方です。
すべてを同じように改善するのではなく、全体の成果を左右している制約に注目し、そこから全体を考える。 ここにTOCの特徴があります。

ボトルネックが、
全体の流れを制約する

簡単な生産工程で考えてみます。

ある製品が、A・B・Cという3つの工程を順番に通るとします。

工程A 1時間に10個
    ↓
工程B 1時間に6個
    ↓
工程C 1時間に12個

このとき、工程Aは1時間に10個、工程Cは12個を処理できます。

しかし、真ん中の工程Bは6個しか処理できません。そのため、この工程全体として流せる量は、B工程の能力によって制約されます。 このように、全体の流れを制限している部分をボトルネックと呼びます。

では、工程Cを改善して、1時間に12個から15個へ増やしたらどうでしょうか。C工程だけを見れば、処理能力は上がっています。しかし、B工程が6個のままであれば、全体として流せる量は増えません。

つまり、ある部分を改善したからといって、必ずしも全体の成果が改善するわけではないということです。

部分最適ではなく、
全体最適で考える

それぞれの部署や工程が、自分たちの効率を高めることは大切です。

しかし、各部分の効率を最大化することが、必ずしも会社全体の成果を最大化するとは限りません。先ほどの工程で、A工程が1時間に10個をつくり続けても、B工程では6個しか処理できません。

すると、AとBの間には処理されないものがたまっていきます。

A工程だけを見れば、高い稼働率を維持しています。しかし、会社全体から見れば、その忙しさが成果につながっているとは限りません。
TOCでは、こうした部分最適ではなく、システム全体の成果を高める全体最適を考えます。

そして、そのための起点となるのが制約です。

どこが全体の成果を制約しているのか。
その制約をどう活用するのか。
ほかの工程を制約に対してどう動かすのか。

制約を中心に、システム全体を考える。
これがTOCにおける全体最適の特徴です。

「みんなが忙しい」と、
全体の成果は同じではない

会社では、ときに、
「設備を止めてはいけない」
「人を遊ばせてはいけない」
「稼働率をもっと上げよう」
と考えます。

しかし、すべての工程が最大限に仕事をすることが、全体にとって最も効率的とは限りません。ボトルネックより前の工程が必要以上につくれば、仕掛品がたまります。
後工程が処理できない仕事を増やしても、最終的な成果が増えるわけではありません。

ここで見るべきなのは、
「それぞれが、どれだけ忙しく働いているか」ではなく、

「全体の成果につながる流れが、どれだけ生まれているか」です。

TOCは、個々の効率ではなく、全体の成果を制約しているものから仕事の流れを見ることを求めます。

制約を中心に改善する
― 5つの集中ステップ

では、制約が見つかったら、どのように改善していけばよいのでしょうか。
TOCでは、制約に集中して改善を進めるために、**5つの集中ステップ(Five Focusing Steps)**が示されています。

まず、全体の成果を制約しているものを見つけます。

どこで仕事が滞っているのか。
何が全体の成果を制限しているのか。

最初からすべてを改善するのではなく、制約を特定することから始めます。

次に、現在ある制約の能力をできる限り有効に使います。

すぐに新しい設備を買ったり、人員を増やしたりするのではなく、停止時間や段取り、仕事の流し方などを見直し、今ある制約を十分に活かせているかを考えます。

制約以外の工程や仕事も、制約を中心に動くよう調整します。

非制約工程が自分たちの効率だけを追求して仕事を増やしても、全体の成果にはつながらない場合があります。そこで、ほかの部分を制約に合わせ、システム全体として流れが整うようにします。

それでも制約が全体の成果を妨げているなら、設備の増強、人員配置の変更、外注などによって、制約そのものの能力を高めることを検討します。

制約を改善すると、それまでとは別の場所が新しい制約になることがあります。

そこで、再び最初に戻ります。
ただし、ここで注意しなければならないのが、**惰性(Inertia)**です。
以前の制約に合わせてつくられたルールや仕事の進め方が、制約が変わったあともそのまま残ることがあります。

制約が変われば、それまで必要だった仕組みや判断も見直す必要があります。
過去のやり方そのものが、新たな制約になっていないか。 そこまで問い直しながら、再び制約を特定していきます。

制約は、ずっと同じ場所に
あるとは限らない

先ほどの例に戻ってみます。

最初は、

工程A 10個/時間
工程B  6個/時間
工程C 12個/時間

でした。

ここではB工程が制約になっています。 では、B工程を改善して、

工程A 10個/時間
工程B 11個/時間
工程C 12個/時間

になったらどうでしょうか。

今度は、1時間に10個しか処理できないA工程が全体の流れを制約する可能性があります。
つまり、制約は改善によって移動することがあります。

そのため、

制約を発見する
   ↓
制約を中心に改善する
   ↓
全体の成果が変わる
   ↓
新しい制約を発見する

という循環が生まれます。

全体最適は、一度実現すれば終わるものではありません。
その時点で何が全体を制約しているのかを見続けることが重要になります。
そして、制約が変わったにもかかわらず、以前の制約を前提とした仕組みを残してしまえば、その惰性が新たな制約になる可能性もあります。

制約は、設備や工程だけではない

「制約」というと、生産ラインの処理能力が低い工程を想像しやすいかもしれません。

しかし、制約は必ずしも設備や工程だけとは限りません。
人の能力や仕事の進め方、組織内の方針やルール、あるいは市場側の条件などが、全体の成果を制約する場合もあります。

重要なのは、目の前に見えている問題を一つずつ改善することではなく、
「いま、この組織全体の成果を最も制約しているものは何か」
と考えることです。

全体最適を考える方法は、
TOCだけではない

個々の工程だけではなく、仕事の流れやシステム全体を見る考え方は、TOCだけのものではありません。

たとえば、**トヨタ生産方式(TPS)の柱の一つであるジャスト・イン・タイム(JIT)**では、「必要なものを、必要な時に、必要な量だけ」つくることを基本に、工程間の流れを整えていきます。
つまり、個々の工程の効率だけではなく、全体としてどう流れるかを見るという点では、TOCと共通する部分があります。ただし、全体を見るための考え方は異なります。

TOCでは、
「全体の成果を制約しているものは何か」
を見つけ、その制約を起点に全体を改善していきます。

したがって、
「全体最適を目指す」ということ自体ではなく、「制約から全体最適を考える」ことにTOCの特徴がある
と捉えることができます。

すべてを改善するのではなく、
制約から全体を改善する

企業が使える時間、人、資金には限りがあります。
すべての問題を、同時に改善することはできません。

だからこそTOCでは、
どこを改善すれば、全体の成果が最も大きく変わるのか。を考えます。そのために制約を見つけ、そこに改善を集中する。制約が解消されたら、また全体を見て次の制約を探す。そして、過去のやり方が新しい制約になっていないかも問い直す。

部分最適ではなく、全体最適で考える。
そして、その全体最適を「制約」から考える。

そこに、制約理論(TOC)の特徴があります。


参考文献・参考資料

  • Goldratt, E. M. (1990). What Is This Thing Called Theory of Constraints and How Should It Be Implemented? North River Press.
  • Goldratt, E. M. & Cox, J. The Goal: A Process of Ongoing Improvement. North River Press.
  • Theory of Constraints Institute, “Five Focusing Steps, a Process of On-Going Improvement.”
  • Goldratt Japan「TOC(Theory of Constraints)制約理論」
  • トヨタ自動車「トヨタ生産方式」

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