インフォーマル・コミュニケーションとは

2026.09.14
理論から学ぶ

組織は、「公式な会話」だけで
動いているのか。

会社には、仕事を進めるためのさまざまなコミュニケーションがあります。

会議を開く。
上司が部下に指示を出す。
報告書を提出する。
社内システムで情報を共有する。

こうしたコミュニケーションには、組織の役割やルールに基づいた正式な経路があります。
しかし、実際の会社では、それだけで人と人がつながっているわけではありません。

廊下ですれ違ったときの一言。
昼休みの何気ない会話。
仕事の合間に交わされる相談。
「あの件、どうなった?」という、正式な報告になる前のやりとり。

こうした、組織図や業務上の指示系統だけでは捉えられない人と人とのコミュニケーションも、日々の仕事の中には存在しています。
それが、インフォーマル・コミュニケーションです。

インフォーマル・
コミュニケーションとは何か

組織の中で交わされるコミュニケーションには、**フォーマル・コミュニケーション(公式)とインフォーマル・コミュニケーション(非公式)**があります。

フォーマル・コミュニケーション(公式)

組織の正式な役割や権限、業務上の仕組みに基づいて行われるコミュニケーションです。
たとえば、上司から部下への指示、部下から上司への報告、部門間の会議、社内文書やシステムによる情報共有などがあります。組織として、誰が、誰に、どのような情報を伝えるのかが、ある程度定められているコミュニケーションです。

インフォーマル・コミュニケーション(非公式)

一方、インフォーマル・コミュニケーションは、正式な役割や情報経路だけによらず、人と人との日常的な関係の中から自然に生まれるコミュニケーションです。

同僚同士の何気ない会話。
部署を越えた相談。
休憩時間の会話。

「この問題なら、あの人に聞いてみよう」といった、組織図には表れないつながり。こうしたコミュニケーションも、実際の組織の中では日常的に行われています。重要なのは、インフォーマル・コミュニケーションを単に**「雑談」だけのことだと捉えない**ことです。その背景には、仕事をする中で自然に形成されていく、人と人との関係があります。

バーナードが考えた「非公式組織」

組織論の研究者チェスター・バーナードは、公式組織だけでなく、**非公式組織(informal organization)**にも注目しました。

公式組織が、共通の目的に向けて人々の活動を意識的に調整することで成立するのに対して、非公式組織は、人々の接触や相互作用から自然に生まれていきます。

たとえば、同じ職場で働くうちに相談するようになった人。部署は違っていても、以前一緒に仕事をしたことから生まれた関係。困ったときには声をかける、という暗黙のつながり。こうした関係のすべてを、会社があらかじめ設計しているわけではありません。

バーナードは、このような非公式組織を、公式組織とは無関係なものとは考えませんでした。非公式な関係は、人々のコミュニケーションを支え、公式組織のまとまりを維持する働きも持っています。

つまり、組織には、制度や組織図によってつくられた関係だけでなく、人々が実際に関わる中から生まれる関係も存在しているのです。

情報は、正式な経路だけを
流れるわけではない

会社で必要な情報は、会議や報告書だけを通って流れるわけではありません。
正式な会議を開くほどではない小さな変化を、隣の部署の人との会話から知ることがあります。困っていることを何気なく話したことで、別の人が解決方法を教えてくれることもあります。

正式な報告になる前に、
「最近、この問い合わせが増えている」
「この作業、少しやりにくくなっている」

といった情報が共有されることもあります。
インフォーマル・コミュニケーションには、公式な情報経路だけでは拾いにくい情報を、人と人との関係を通じて伝える側面があります。

ただし、非公式な情報だから常に正確とは限りません。情報が変形したり、うわさとして広がったりすることもあります。インフォーマルであること自体が「良い」のではなく、公式なコミュニケーションとは異なる性質を持っているのです。

何気ない会話の中で、
「この会社らしさ」も伝わる

インフォーマル・コミュニケーションでやりとりされるのは、業務上の情報だけではありません。
仕事をしていると、
「うちでは、こういうときはお客様を優先する」
「この程度の問題なら、まず自分たちで動いてみる」
「失敗を隠すより、早めに相談した方がいい」
といった考え方を、周囲の人とのやりとりから学ぶことがあります。
それらがすべて、マニュアルや行動指針に書かれているとは限りません。

日常の会話。先輩や上司の反応。同僚との相談。
成功や失敗について交わされる言葉。

そうした日々の相互作用を通じて、**「この会社では何を大切にするのか」「この会社では、どのように仕事をするのか」**という価値観や行動のあり方も共有されていきます。

ここまでは、非公式な関係が組織のコミュニケーションを支えるという視点から見てきました。さらに、こうした日常的な相互作用を組織文化という視点から見ると、もう一つの側面が見えてきます。

組織文化は、
制度だけではつくられない

会社には、経営理念や行動指針、評価制度、業務ルールなどがあります。これらは、組織として大切にする価値観や行動を示す重要な仕組みです。しかし、制度や言葉を定めただけで、組織文化がそのまま出来上がるわけではありません。

実際の職場では、
何が評価されているのか。
問題が起きたとき、周囲はどう反応するのか。
困っている人に、誰がどう声をかけるのか。
上司と部下は、どのような言葉を交わしているのか。
そうした日々繰り返される人と人との相互作用によっても、組織の価値観や行動様式は形づくられていきます。

つまり、組織文化には、会社が公式に掲げるものだけでなく、人々が日常の中で共有し、積み重ねてきたものもあります。インフォーマルな関係やコミュニケーションは、その形成や共有に関わる一つの場になるのです。

「用事のない会話」は、
本当に用事がないのか

仕事に必要なことだけを話す。
必要な情報はシステムで共有する。会議は効率よく終わらせる。それ自体は、決して悪いことではありません。しかし、効率化によって、仕事に直接必要のない会話までなくなっていったらどうでしょうか。
「最近どう?」
「あの仕事、大変だったね」
「そういえば、この前こんなことがあって」
一つひとつを見れば、仕事の成果に直接結びつかない会話かもしれません。

しかし、そのような会話を通じて人間関係が形成され、その関係が別の場面で相談や情報共有を支えることがあります。
さらに、その日常的なやりとりの中で、会社の価値観や仕事のやり方が伝わっていくこともあります。そう考えると、「用事のない会話」には、本当に用事がないのでしょうか。 という問いが生まれます。

インフォーマルだから、
良いとは限らない

一方で、インフォーマルな関係を無条件に良いものと考えることにも注意が必要です。
特定の人だけで情報が共有される。
非公式なグループが閉鎖的になる。
誤った情報やうわさが広がる。
人間関係によって、正式な意思決定が歪められる。こうした問題が生じる可能性もあります。だから、公式な仕組みをなくして、インフォーマルな関係に任せればよいということではありません。

必要なのは、フォーマルか、インフォーマルか
という二者択一ではなく、
公式な仕組みと、非公式な人間関係が、それぞれどのように組織を支えているのか
を見ることです。

その会社にしかない関係が、
文化をつくっていく

制度や業務プロセスは、他社が調べて取り入れることができます。

しかし、長い時間をかけて形成されてきた人と人との関係や、その中で共有されてきた価値観、暗黙の仕事の進め方まで、そのままコピーすることは容易ではありません。

組織文化がその会社固有のものになっていく背景には、こうした日々の相互作用の積み重ねがあります。

人が関わり、会話を交わし、仕事をともにする。その中で、価値観や仕事のやり方が共有され、少しずつ「この会社らしさ」が形づくられていく。だからこそ、組織文化には、制度や仕組みを表面的に真似するだけでは再現しにくい側面があります。

組織は、公式な仕組みだけでは
動いていない

会社には、組織図があります。ルールがあります。会議があります。情報システムがあります。こうした公式な仕組みは、組織を動かすために欠かせません。

しかし、その間には、組織図には描かれていない人と人との関係があります。そこで交わされる何気ない会話が、情報を伝え、相談を生み、価値観や仕事のやり方を共有することがあります。

そして、その積み重ねが、その会社らしい組織文化を形成する一つの要素になることもあります。
組織は、公式な仕組みだけで動いているわけではない。
インフォーマル・コミュニケーションという視点は、組織の中にある、もう一つの人と人とのつながりを考えるための手がかりになります。


参考文献

  • Barnard, C. I. (1938). The Functions of the Executive. Harvard University Press.
  • Schein, E. H. (2010). Organizational Culture and Leadership. 4th ed. Jossey-Bass.

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