SL理論(状況対応型リーダーシップ)とは

2026.09.24
理論から学ぶ

部下の状況によって、
リーダーの関わり方は
どう変わるのか。

部下を育成するとき、どのように関わればよいのでしょうか。

仕事の進め方を細かく指示する。
本人の考えを聞きながら、一緒に進める。
ある程度任せて、必要なときだけ支援する。

どれか一つが、いつでも正しいわけではありません。

仕事の経験がほとんどない人と、十分な経験を積んだ人では、必要な関わり方は異なります。また、同じ人であっても、慣れた仕事をするときと、初めての仕事に取り組むときでは状況が違います。

相手の状況が変われば、リーダーに求められる関わり方も変わる。

この考え方をリーダーシップのモデルとして示したのが、SL理論(Situational Leadership Theory:状況対応型リーダーシップ)です。

SL理論とは何か

SL理論は、Paul HerseyとKenneth H. Blanchardによって提唱されたリーダーシップ理論です。

その基本にあるのは、どのような状況でも有効な「唯一最善」のリーダーシップ・スタイルがあるわけではないという考え方です。
これは、状況によって有効なリーダーシップは異なると考える、コンティンジェンシー・アプローチの一つとして位置づけることができます。

SL理論が特に注目したのは、リーダーが関わる部下の成熟度です。
部下が、その課題に対してどの程度の能力や意欲を持っているのか。それに応じて、リーダー自身の関わり方も変えていく必要があると考えます。

つまりSL理論は、
「どのリーダーシップ・スタイルが優れているか」
ではなく、
「その部下の現在の状況には、どのようなリーダーシップ・スタイルが適しているか」

を考える理論です。

リーダーの行動を、
二つの軸で考える

SL理論では、リーダーの行動を大きく二つの側面から捉えます。

一つが、課題達成に向けた行動(Task Behavior)です。
何をするのか。
どのようにするのか。
いつまでにするのか。
リーダーが仕事の進め方や役割を具体的に示し、部下の行動を方向づけます。

もう一つが、関係づくりの行動(Relationship Behavior)です。
部下の話を聞く。
意見を求める。
励ます。
意思決定への参加を促す。
一方的に仕事の進め方を示すのではなく、双方向のコミュニケーションを通じて部下を支えます。

SL理論では、この二つの行動をどの程度行うかによって、リーダーシップ・スタイルを捉えます。

部下の「成熟度」を見る

では、リーダーは何を基準に関わり方を変えるのでしょうか。

古典的なSL理論では、その基準として部下の**成熟度(Maturity)**を捉えます。

ここでいう成熟度とは、年齢や人格的な成熟を意味するものではありません。

ある特定の課題を遂行するための能力や意欲など、その仕事に対する状態を表すものです。

成熟度は、M1からM4までの4段階で整理されます。

M1
能力が十分ではなく、課題を遂行するための準備も十分ではない状態。

M2
能力はまだ十分ではないものの、取り組もうとする意欲がある状態。

M3
必要な能力を持っている一方で、自信や意欲などの面で十分ではない状態。

M4
必要な能力があり、自ら取り組むことのできる状態。

ここで重要なのは、M1からM4までを、その人自身の固定的なランクとして考えないことです。

同じ人でも、経験のある仕事と初めて取り組む仕事では、その課題に対する能力や意欲は異なります。 SL理論が見ているのは、「その人は成熟しているか」ではなく、その人が、その課題に対して現在どのような状態にあるかです。

4つのリーダーシップ・
スタイル

SL理論では、課題達成に向けた行動と関係づくりの行動の組み合わせによって、リーダーシップ・スタイルを4つに整理します。

 S1 教示型

課題達成に向けた行動:多い
関係づくりの行動:少ない

リーダーが、何を、どのように行うのかを具体的に示し、仕事を方向づけるスタイルです。部下自身に判断を委ねるよりも、まず必要な行動や仕事の進め方を明確にします。

 S2 説得型

課題達成に向けた行動:多い
関係づくりの行動:多い

仕事の進め方を具体的に示しながら、なぜそうするのかを説明し、部下とのコミュニケーションも重視するスタイルです。リーダーが方向を示すだけではなく、部下の理解や納得を促しながら仕事を進めます。

 S3 参加型

課題達成に向けた行動:少ない
関係づくりの行動:多い

仕事の進め方を細かく指示するよりも、部下の話を聞き、意見を求め、意思決定への参加を促すスタイルです。リーダーが答えを示すのではなく、部下自身の判断や行動を支援することを重視します。

 S4 委任型

課題達成に向けた行動:少ない
関係づくりの行動:少ない

仕事の進め方や意思決定を部下に委ね、リーダーによる細かな指示や支援を減らすスタイルです。これは部下への関心を失うという意味ではありません。自ら仕事を進められる部下に対して、必要以上に介入せず、その自律性を尊重します。

成熟度とリーダーシップ・
スタイルを対応させる

SL理論では、部下の成熟度とリーダーシップ・スタイルを次のように対応させます。

M1 → S1 教示型
M2 → S2 説得型
M3 → S3 参加型
M4 → S4 委任型

M1の段階では、部下が課題を遂行するための能力がまだ十分ではないため、S1の教示型によって具体的な方向を示します。

M2になると、能力はまだ十分ではないものの取り組む意欲があるため、S2の説得型によって方向を示しながら、関係面での働きかけも強めます。

M3では、課題を遂行するための能力を持つようになるため、細かな指示を減らし、S3の参加型によって本人の判断や行動を支援します。

そしてM4では、必要な能力と意欲を持ち、自ら課題を遂行できるため、S4の委任型によって仕事や意思決定を本人に委ねます。

このようにSL理論では、部下の状態が変わるのに合わせて、リーダー自身も関わり方を変えていくことになります。

同じ人でも、仕事が変われば
状況は変わる

L理論を理解するうえで重要なのは、M1からM4までを単純な「人の成長段階」として固定しないことです。たとえば、長年営業を経験している社員がいるとします。既存顧客への営業では、自分で判断しながら仕事を進められるかもしれません。

しかし、その社員が初めて部下を持ち、マネジメントを任されたとしたらどうでしょうか。営業という課題では十分な能力と経験を持っていても、マネジメントという新しい課題では、まだ経験や能力が十分ではないかもしれません。

つまり、
「この人はM4の人だ」
と固定的に分類するのではなく、
「この人は、この課題について現在どのような状態にあるのか」
を見る必要があります。

SL理論における成熟度は、人そのものを評価するためのものではなく、その人と課題との関係の中で捉えるものです。

「人によって接し方を変える」
というだけではない

SL理論は、「相手によって接し方を変えればよい」という考え方として理解されることがあります。

しかし、それだけでは理論の特徴を十分に捉えていません。重要なのは、単に人によって態度を変えることではなく、部下の課題に対する状態を捉え、課題への指示と関係面での働きかけをどの程度行うかを変えることです。

経験の浅い人に仕事を任せきりにすることが、必ずしも本人の自律性を尊重することになるとは限りません。反対に、十分な能力を持ち、自分で判断できる人に細かな指示を続ければ、その人が持つ力を生かせないこともあります。

教示すること、支援すること、任せることのどれかが、それ自体で優れているわけではありません。SL理論の特徴は、リーダーの行動を、相手の状況との適合から考えるところにあります。

SL理論をどう捉えるか

SL理論は、リーダーシップを「優れたリーダーが持つ一つのスタイル」として考えるのではなく、状況との関係から捉えた点に特徴があります。

その一方で、SL理論が示す成熟度とリーダーシップ・スタイルの対応関係については、実証研究によって一貫して支持されているわけではありません。

たとえば1990年のBlankらの研究では、理論が想定する成熟度とリーダー行動の対応について十分な支持が得られませんでした。2009年のThompsonとVecchioによる検証でも、SL理論は広く知られている一方、実証的な裏づけは限定的であると指摘されています。日本で行われた2019年の研究でも、理論の予測を支持する結果は得られていません。

ただし、研究結果がすべて否定的というわけではなく、SL理論の有効性を支持した研究もあります。したがって、研究上の評価は一様ではありません。

そのため、
「M1なら、必ずS1が正しい」
という絶対的な法則として理解するのは適切ではありません。 むしろSL理論が示した重要な視点は、リーダーが自分の得意な関わり方だけを繰り返すのではなく、相手が置かれている状況を見ながら、自らの関わり方を考えることにあります。

「自分のスタイル」ではなく、
「相手の状況」から考える

指示をするリーダーが、いつでも優れているわけではありません。
任せるリーダーが、いつでも優れているわけでもありません。
必要な指示も、必要な支援も、相手の状況によって変わります。そして同じ人であっても、仕事や課題が変われば、その状況は変わります。

唯一最善のリーダーシップ・スタイルを探すのではなく、相手の状況に応じて、自分の関わり方を変える。
それが、SL理論の基本的な考え方です。


参考文献

  • Hersey, P. & Blanchard, K. H. (1977). Management of Organizational Behavior: Utilizing Human Resources. 3rd ed. Prentice-Hall.
  • Thompson, G. & Vecchio, R. P. (2009). “Situational Leadership Theory: A Test of Three Versions.” The Leadership Quarterly, 20(5), 837–848.
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