限られた経営資源を、
どこに向けるのか。
会社には、やりたいことがたくさんあります。
新しい商品をつくりたい。
新しい市場に進出したい。
人材を育てたい。
設備を新しくしたい。
もっと多くの顧客に知ってもらいたい。
しかし、人も、お金も、時間も無限にあるわけではありません。
すべてを同時に行うことはできないからこそ、会社は選ばなければなりません。
どこに向かうのか。
何に力を使うのか。
そして、何をしないのか。
こうした選択を通じて、企業が進む方向と、そのための資源の使い方を考えるのが、経営戦略です。
経営戦略をどう捉えるか
「戦略」という言葉には、さまざまな定義があります。
経営学においても、研究者によって戦略の捉え方は異なり、一つの定義だけで説明できるものではありません。ただ、その中心には、企業が目指す方向に向けて、どこで活動し、何を選び、限られた経営資源をどのように配分するのかを考えるという問題があります。
経営資源には、人、モノ、カネだけでなく、技術、知識、情報、ブランド、顧客との関係など、企業が持つさまざまなものがあります。それらを、どこにでも均等に投入することはできません。
だからこそ、
どこに集中するのか。
何を優先するのか。
何をあえて行わないのか。
という選択が必要になります。 経営戦略は、企業の未来について考えるだけではなく、限られた経営資源をどこに向けるのかを決めることでもあります。
「目標」と「戦略」は
同じではない
たとえば、
「売上を2倍にする」
「業界トップを目指す」
「海外市場に進出する」
といったものは、企業が目指す目標や方向を示しています。
しかし、それだけでは戦略とはいえません。
売上を2倍にするのであれば、
どの顧客を対象にするのか。
どの商品やサービスを伸ばすのか。
既存市場を深掘りするのか、新しい市場へ進むのか。
そのために、どの経営資源を投入するのか。
といった選択が必要になります。
「どこを目指すのか」だけではなく、「そこへ向かうために何を選ぶのか」。
経営戦略を考えるうえでは、この違いが重要です。
戦略とは
「選ぶこと」である
経営戦略を考えるとき、重要になるのが選択です。
企業には限られた経営資源しかありません。一つの事業に人材や資金を投入すれば、別の事業には使えなくなります。ある顧客層に合わせて商品やサービスをつくれば、すべての顧客に同じように応えることは難しくなるかもしれません。
つまり、何かを選ぶことは、同時に何かを選ばないことでもあります。「あれもやる、これもやる」と活動を増やしていくだけでは、限られた経営資源が分散してしまいます。
経営戦略には、
何をするのかを決めることと同時に、何をしないのかを決めること
が含まれています。
経営戦略には、
いくつかの階層がある
経営戦略は、一つのレベルだけで考えるものではありません。
一般には、大きく企業戦略・事業戦略・機能別戦略という階層で捉えることができます。
企業戦略
企業全体として、どのような事業領域で活動するのかを考える戦略です。
どの事業を成長させるのか。
新しい事業へ進出するのか。
複数の事業へどのように経営資源を配分するのか。
複数の事業を持つ企業であれば、企業全体として事業の組み合わせをどうするかという問題も含まれます。
事業戦略
特定の事業において、どのように競争し、顧客に選ばれるのかを考える戦略です。
どの顧客を対象にするのか。
どのような価値を提供するのか。
競合企業との違いをどこにつくるのか。
といった問題を考えます。
機能別戦略
企業戦略や事業戦略を実現するために、マーケティング、人事、生産、研究開発、財務など、それぞれの機能をどのように動かすのかを考える戦略です。
企業戦略、事業戦略、機能別戦略は、それぞれ独立したものではありません。
企業全体の方向性から、それぞれの事業、さらに具体的な機能へとつながることで、戦略は実際の企業活動へ落とし込まれていきます。
経営戦略は、
どこから考えるのか
企業が戦略を考えるとき、見るべきものは一つではありません。
一つは、企業の外側です。
市場はどのように変化しているのか。
顧客は何を求めているのか。
競合企業はどのように動いているのか。
企業を取り巻く環境を理解し、その中でどのような位置を取るのかを考えます。
もう一つは、企業の内側です。
自社にはどのような技術があるのか。
どのような人材や知識があるのか。
他社にはない資源や能力は何なのか。
企業が持つものから、何ができるのかを考えます。
経営戦略には、外部環境を見る視点と、企業内部を見る視点の両方があります。 どちらか一方だけを見るのではなく、企業を取り巻く環境と、自社が持つ資源や能力との関係から、進む方向を考えていきます。
戦略には、さまざまな
考え方がある
経営戦略については、これまでさまざまな理論が提示されてきました。
たとえば、Michael E. Porterは、企業を取り巻く競争環境や、競争上どのようなポジションを取るのかという視点から、企業の競争戦略を体系化しました。
一方、資源ベース論(Resource-Based View:RBV)では、企業内部にある資源や能力に注目し、それらが持続的な競争優位にどうつながるのかを考えます。
また、Henry Mintzbergは、戦略をあらかじめ意図され、計画されたものだけとして捉えるのではなく、実際の行動の積み重ねから形成される戦略にも注目しました。
これらは、どれか一つだけが経営戦略の正しい見方というわけではありません。
外部環境から考える。
内部の資源から考える。
実際の行動から形成される戦略を見る。
経営戦略という大きなテーマには、異なる角度から企業の進む方向を捉える複数の考え方があります。

戦略は、計画をつくって
終わるものではない
戦略というと、中長期の計画書をつくることをイメージするかもしれません。
しかし、計画をつくることと、戦略そのものは同じではありません。市場や顧客、競合企業、技術など、企業を取り巻く環境は変化します。最初に考えた通りに物事が進むとは限りません。
また、実際に行動することで、初めて分かることもあります。
そのため、戦略は一度決めたら終わりではなく、実行し、その結果を見ながら、必要に応じて見直していくものでもあります。
重要なのは、計画通りに進むことそのものではなく、企業がどこに向かい、何を選ぶのかという軸を持ちながら、変化に対応していくことです。
経営理念と経営戦略は、
どう違うのか
経営理念と経営戦略は、企業の方向を考えるうえで深く関係していますが、同じものではありません。
経営理念は、企業が何を大切にし、どのような考え方で経営するのかという、企業の根本に関わるものです。それに対して経営戦略は、その企業が置かれている環境の中で、どこに向かい、何を選び、経営資源をどこに配分するのかを考えます。
たとえば、

という関係で捉えることができます。
経営理念が企業の根本的な考え方を示すのに対して、経営戦略は、その考え方や目指す方向を、企業の選択や行動へとつなげていく役割を持ちます。
戦略は、未来を当てるため
のものではない
経営戦略を考えるというと、将来の市場を予測し、その予測に基づいて計画を立てることのように思えるかもしれません。もちろん、将来を考えることは必要です。しかし、未来を正確に予測することはできません。だからこそ経営戦略では、未来を当てること以上に、
自社はどこに向かうのか。
何を選ぶのか。
どこに経営資源を集中するのか。
そして、何を選ばないのか。
を考えることが重要になります。経営戦略とは、未来を正確に予測するための計画ではありません。
限られた経営資源のなかで、どこに向かい、何を選び、何を選ばないのかを考えること。
それが、経営戦略を考える基本的な出発点です。
参考文献
- Chandler, A. D. Jr. (1962). Strategy and Structure: Chapters in the History of the Industrial Enterprise. MIT Press.
- Ansoff, H. I. (1965). Corporate Strategy: An Analytic Approach to Business Policy for Growth and Expansion. McGraw-Hill.
- Porter, M. E. (1980). Competitive Strategy: Techniques for Analyzing Industries and Competitors. Free Press.
- Barney, J. (1991). “Firm Resources and Sustained Competitive Advantage.” Journal of Management, 17(1), 99–120.
- Mintzberg, H. & Waters, J. A. (1985). “Of Strategies, Deliberate and Emergent.” Strategic Management Journal, 6(3), 257–272.